人類に有用な特定の植物を自然の環境中で栽培する農業にとって、非意図的に生育してくる雑草は、生産の大きな阻害要因です。高温多雨のモンスーンアジアにある日本の農業は昔から雑草との戦いともいわれ、水田稲作で除草作業に要した労働時間は、かつては10アールあたり50時間を超えていました。それが除草剤の開発と普及に伴い大幅に短縮され、散布回数の低減化を目的とした一発処理剤の開発などで今日では2時間未満に短縮されるなど、農業の軽労化に大きく貢献しています。
公益財団法人日本植物調節剤研究協会(以下、植調協会)は、植物調節剤(除草剤、植物成長調整剤、植物の生育調整資材)の開発利用の研究を推進し、その成果の普及を通じて農作物の生産性の向上と安定生産、農作業の省力化等を図ることで、農業の持続的発展並びに環境保全、食の安全に貢献することを目的としています。植調協会は1964年(昭和39年)に財団法人として設立され、さらに新公益法人制度の施行にともない、2012年(平成24年)からは公益財団法人として社会的役割を果たすべく努めています。
植調協会は設立以来50年以上にわたって、植物調節剤に関する薬効・薬害試験、作用特性試験、残留性試験、永年蓄積残留試験等の検査検定事業にて植物調節剤の実用性評価、適切な使用方法の策定、農薬登録のための資料提供、土壌環境への影響評価などを実施してきました。それとともに、植物調節剤の適切な利用法の開発を目的とした基礎的・応用的研究により、水稲用除草剤一発処理剤や散布労力の低減を目的にしたジャンボ剤、フロアブル剤、少量拡散性粒剤、水に希釈せず散布できる畑地用細粒剤、植被を維持しつつ畦畔や道路法面の草刈りを軽減できる抑草剤などを企業の皆様とともに開発してまいりました。また、公的試験研究機関や普及機関にご協力いただきながら、これらの有用な植物調節剤を安全・適正に使用するための普及啓発事業を実施するとともに、雑草防除や植物調節剤等に関連した研究会・講習会の開催等、普及・啓発活動を展開するとともに、人材育成にも努めています。これらの業務は、植調協会の研究所・研究センター、全国各地の試験地を中心に、公的な試験研究機関とも連係・協力を得ながら行い、試験研究に対する多様なニーズにお応えしています。
近年日本農業は、農業従事者の高齢化がかつてない速さで進み、労働力不足が一段と深刻さを増し、農地の集約化・大規模化等が図られています。近年特に顕著になっている地球温暖化の進行は作物や雑草の生育に大きく影響していますし、ヒトやモノが自由に行き来するグローバル化により、外来雑草の侵入・蔓延リスクが増大しています。このように、農業の生産構造や農業を取り巻く環境は大きく変化していますが、例えば新たな作物や農法の導入は、それらに適用できる雑草管理技術を必要とするなど、変化に対応した新たな技術開発の重要性は増大していると確信しています。
植調協会は、役職員一丸となって、長年培い蓄積してきた経験、ノウハウ、情報を生かし、多くのステークホルダーとの連携の下、新たな雑草管理技術の開発を通じ、我が国農業の持続的発展と環境保全、食の安全の推進に貢献してまいります。そのことはまた、「貧困と飢餓の撲滅」をはじめとしたSDGs(国連の持続的開発目標)が掲げる目標の達成に貢献するものです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。